この言葉は野村不動産元会長・社長だった故中野淳一氏のものである。勤めていた会社の担当役員と(当時の)社長あてに訪問したとき、「市況はどうですか?」と尋ねたあとに返ってきた応えがこれだった。2位以下の企業に市場を語る資格はないという、いかにもガリバー野村證券出身の経営者らしい考え方だと思ったものだ。またそれと同時に、いずれ語るときがくると秘めた思いを常に感じされる人であった。
中野社長は、顧客接点を「徹底的に」重視するタイプの経営者だった。営業畑が長かったと新聞で読んだことがあるが、だからということではなく、経営者として、企業戦略として販売の現場に力点を置いていた。とにかく、そこに関しては一貫している人だった。休日にモデルルームに行き、顧客カードの裏面に書かれた営業マンのメモに目を通していたのも有名な話。
「現場の人は社長が来たらびっくりしませんか?」と聞いたことがある。社員は接客に忙しく「かまってもらうことなんてまずない」とうれしそうに話されていたのを覚えている。もう10年も前のことだ。ちょうどその頃から野村は大したものだとその営業力が業界内で話題になっていった。5年後に三井不動産がレジデンシャル分社構想を打ち上げ、10年後三菱地所がそれに続く。当時は誰もそんなことを想像もしなかった。
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