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「長谷工のマンション」は、なぜマーケットシェアを拡大できたのか?

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昨日、<日本不動産ジャーナリスト会議>研修会は、株式会社長谷工コーポレーション 代表取締役会長 大栗育夫氏を講師にお迎えし「『住まいと暮らしの創造企業グループ』を目指して」をテーマにご講演いただいた。

講師経歴:1950年生まれ。1974年東京理科大学工学部建築学科卒。同年、長谷川工務店(現長谷工コーポレーション)入社。2001年取締役就任、2006年代表取締役専務就任、2010年代表取締役社長就任、2014年代表取締役会長就任(現任)

8万戸時代、奏攻した「長谷工スキーム」とは?

長谷工コーポレーションは港区芝に本社を置く。分譲マンションに特化したゼネコン(建設業)である。資本金:575億円、従業員数2444人(2017年9月30日時点)。設計、建設業を行う長谷工コーポレーションを主軸に、マンション分譲に関連する事業である販売代理や管理まで領域に取り込む。長谷工グループは連結子会社60社、連結売上高7723億円、同経常利益888億円、同従業員数6602人(同時点)。2018年(平成30年)3月期決算予想では同売上高8200億円、同経常利益1000億円を見込む。

同社は、1937年2月11日兵庫県尼崎市で創業。戦後、東京へ進出し米軍住宅なども手掛ける。1970~80年代、リゾート事業やハワイへの海外事業など多角経営を展開するが、バブル崩壊を迎え「あわや倒産」(同氏)の危機に陥る。金融機関に債務免除を要請(1998年~)。一方、分譲マンションは1994年から年間供給8万戸超(首都圏)の大量供給時代に入った。事業主に土地情報を持ち込み、設計、施工から販売・管理までを一貫して提供する「長谷工スキーム(土地持ち込みによる工事の「特命受注方式」)」は市場の中で独自性を極めた。分譲事業を行う上で最も困難な「用地仕入れ」をソリューションに組み込むことで、不動産開発を本業としない総合商社や鉄道系不動産会社をはじめ、異業種参入組を得意先として取り込んでいった。

長引くデフレが、「できるだけ早く、一度に売却したい」地主のニーズを沸き起こしたわけだが、これが市場に「大量の大規模マンション」を生み出した。長谷工スキームは「規模のメリットが出やすく」、総事業費が膨らむことで「多くの取引先(事業主:JV)を取り込め」、「スピード感ある設計、施工ノウハウ」も双方の利益に活かせた。時流に上手くはまったということだ。

施工シェア34.5%(2017年)「大手マンションデベを取り込めた理由」

首都圏の新築分譲マンション供給戸数は、十数年続いた8万戸前後の大量供給から、リーマンションショック(2008年)を機に減少に転じる。2015年以降は、4万戸を下回る水準が続く。市場規模(戸数)が半減したにもかかわらず、業績を伸ばせた背景には、それまで十分に取り込めていなかった財閥系大手4社(三井、三菱、住友、野村グループ)の取引を拡大できたからに他ならない。

大手マンションデベは、郊外型大規模マンションを除けば、一般的な設計・施工のみの受注が多い。「これを当社では『逆輸入』と呼んでいるが、大手シェアが高まったこともあり、この比率は7割にもなった」(同氏)。用地情報がセットの「長谷工スキーム」ではないのに、なぜ、大手からリピート受注がくるのか?背景には「長谷工のマンションはクレームが少ない」実績を築けたからだという。

アフターメンテナンスが前提の分譲マンションは、クレーム対応の結果、竣工後数年経ってかかったコストが累計で数億円レベルになることもある。だから「マンションは割に合わない」と考えるゼネコンは少なくない。さらに、管理会社→事業主経由で施工会社に連絡が到達した時点でカスタマーが激昂しているケースもあり、「まず感情を抑えてもらうところからはじまる」ため、余計な手間もかかる。そこで、同社ではアフター対応を通常のゼネコンは所長が対応するところを、専任の部隊を設けることで迅速にかつその内容を社内に確実にフィードバックさせ知見として貯めていく仕組みを作る。競合他社が嫌がることを、ポジティブに受け取り、スキルアップに転換する姿勢が見える。もちろんレスポンスの早さは言うまでもない。一連のPDCAサイクルの成果として「他社施工に比べクレームが少ない」(大手マンションデベ)。専らマンションを作ってきたから、分譲事業の収支改善にまでアドバイスができる。これらが同社の強みである。

「2008年のリーマンショックで得意先15社を失った」(同氏)。このときの施工シェア(首都圏分譲マンション戸数ベース)が20.7%。以来、戦略的に大手を取り込んだ結果、2017年34.5%まで占有率を拡大。総戸数200戸以上の大規模マンションに限っては5割を超える、という。

「構造へのこだわり」と「職人さんとの絆」

2009年、長谷工はマンション施工の新コンセプト「Be−Liv(ビーリブ)」を打ち出した。極端に簡素なベーシックに、顧客志向に合わせてオプションメニューを大量に取りそろえた(すべてローン組み入れ可)。例えば、標準仕様には下駄箱もない。建築コストを徹底的に削減する策のひとつを商品メニューとして用意したのである。このとき、モデルルームには50社以上460名ほどが見学に来たという。相当斬新なアイデアだったわけだ。当時同社担当は「長谷工のマンションは<ユニクロ>」と表現した。安っぽいといわれることもあるが、「質は高い」を言い換えたものとみる。

昨夜の研修会でも同様の質問が飛んだが、大栗会長は「それでも、構造には徹底したこだわりがある」と回答。「阪神淡路大震災時、同社施工のマンションは1棟も倒壊せず、見直された」。オーナー企業時代、構造を専門に学び、構造へのこだわりが強かったトップに、施主から「金庫を建てるんじゃないんだぞ」と言われたエピソードも披露。構造に対しては、ひとつの系譜があるようだ。

「アイセルコ」「ビーリブ」に代表されるように、仕組化が得意に思える。施工現場でもそれは発揮されているようで「長谷工の現場では1か月でできることが、他社では1.5か月かかる」と職人さんが言うそう。大栗会長曰く、「職人さんはアイデアの宝庫」。例えば、高齢化が進み、もう少し図面の文字が見やすくなったらという声に「キーボードひとつで叶えられる改善」と捉える。多くの職人さんがそれで喜んでくれたら、お互いの利益になる。クレームから学び、現場の職人さんから学び、販売から(買い手の声を集め)市場を学ぶ。その連鎖が事業の拡大につながる。昨年、創業80周年の記念に、多摩センターに「長谷工技術研究所」を設立。企業全体のPDCAは、まるでエコシステムのように思える。

 

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